『be with you 1.』
再建へと動き始めた世界。
かつて一丸となって旅をした仲間たちも今はそれぞれの故郷で、日常を立て直すべく尽力していた。
ブランカの山奥、名もなき村。
流された血の跡も破壊しつくされた残骸も、何もかもを、芽吹いた緑が優しく覆うこの村も、例外ではなかった。
天空の勇者カイルと、彼にとってたった一つの、そして何よりも願った奇跡……身代わりとして散り、今また彼の手へと戻されたクォーターエルフ、シンシア。
2人で細々と歩み始めた再建への道はなかなかに険しく遠かった。
「それでもいつかはどうにかなる」「何事もまずは一歩から」と励ましあって、体力の続く限り、動き続けた。
だが、思いとは裏腹に作業はなかなかはかどらない。
いくら気持ちが強くても、所詮最小ユニットでは、労力に限界がある。
だけではない。
必要以上に進まない、そのわけは……。
フラッシュバック。
2人でいれば、乗り越えられると信じていた。いや、現実そのとおりだった。
どちらかが膝をついたらどちらかが手を差し伸べる。
一緒に倒れたときも、支えあってきた。
だが心の奥底をえぐられた傷は、癒えたように見えてもそうそう綺麗に消えるわけではない。
己の意思に関わりなく、ふとした瞬間に石火のごとく蘇り、生々しいほど鮮やかに残像を映し出しては消えていく。
ほら、あの煤けた石の壁で倒れていたのは、道具屋のおばさん。
ほら、あの焼け崩れた建物から聞こえたのは、宿屋のおじさんの絶叫。
ほら、あの時私が引き抜いたのは、父さんを串刺しにしていた血塗れの鋼の剣。
ほら、断末魔が響いたあの地下室。
ほら、そのあとすべての音が途絶えて。
ほら、静寂の中、踏みしだかれた花畑で見つけたのは、血と埃に薄汚れた、羽帽子。
呆然と立ち尽くして叫んで吐いて、そのたびにどちらかが必死に引き戻す。
それでも、瓦礫を片付け、地を均して、2人はただ一歩でも前に進もうと、もがいていた。
今はこの手に互いがいる。それだけが何よりも確かな現実。
だが最も失いたくないものが容易にこの手をすり抜けた、あの感覚もまた忘れることができない。
もしまた消えたら。
宵闇に不安を掻き立てられるたび、抱き寄せて貪りあって、身も心もくたくたに成り果てて、2人墜ちるように眠る日々もまた、続いていた。