『Take care of yourself 1.』
大きな川を挟んで両岸に展開された町並みとのんびり行きかう小船、他とはちょっと様相が違う町『リバーサイド』に立ち寄った一行は、おのおの情報収集がてら別行動をとっている。
その中でなんとなく合流したクリフト、アリーナ、マーニャ、カイルは、宿で購入してきたハーブティ片手に、川岸に座り込んでしばし雑談に花を咲かせていた。
その向こう、誰ともなしに目を向けた先には、ミネアがいた。
戦闘の時には常にクリフトと共に状況を見据え、攻撃に防御に回復にと臨機応変に立ち回る彼女は、どこと限らず、町に入れば買い物に調合に荷物の整理、合間を縫って人々から持ちかけられる相談に乗ったりと、何かにつけてめまぐるしく動いている印象が強い。
けしてそんな事もないはずなのに、どうにもゆっくり座っているのを、食事以外にあまり見かけない気すらしてくる。
ミネアの行動を思い返してアリーナがほぅ、とため息をついた。
「ミネアって何気に忙しいわよね」
「うーん、あの子の性分というかなんというか、昔っからあんな感じよ?
まぁ自分の時間がないかといえばそうでもないんだけどさ」
「……でも、あんまり寝ていらっしゃらないのではないですか?」
クリフトのつぶやきに、マーニャが「ご名答」と肩をすくめた。
「職業柄、神経を使う、こみいった案件ってのも当然あってね。
街頭の占いだけじゃ手に負えなさそうなのは『お持ち帰り』するわけなのよ。
最近またちょっと多いみたいだから、なおさら」
「持ち帰り?」
ハーブティをずずっとすすって、カイルが口を挟む。
「そ、アンタも時々みたことあると思うけど?」
「ああ、3人のときはたまにやってたな。
最近ないなと思ってたけど、なんだまた増えたんか」
首をかしげたクリフトとアリーナに、『街頭で解決できないような件は一人で改めて占って、後日結果を伝えながらカウンセリングすることもある』とカイルが簡単に説明したのを、マーニャがため息混じりに引き継いだ。
「あの子いわく『深夜1時からが精神を集中できる時間』なんだって。
沙棗花(サソウカ)の香りで空間を清め、インスピレーションを高め、未来を見通す占い師様本来の力を発揮する時間。
それまで少し横になったりして温存しておきはするけれど……精神世界の扉を開くってのはそれだけ気力も体力も削られる。
ミネアの場合は2〜3件が限界ね。終わる頃にはぐったりしてるわ。
それでも仮眠程度で通常の日課だのなんだのもこなしていくの。
ただでさえ手加減へたくそなんだもの、きっとそろそろ……」
はぁ〜っとまた長いため息をつき頭を抱えたマーニャにカイルとアリーナが首をかしげる。
なんとなく嫌な予感を覚えたクリフトを察してか、つっぷしたままちらっと彼を見上げた紫水晶が、能弁に語っていた。
『アタシの言うことなんか聞きやしない。
でも他の人から言われりゃ違うかも。様子、見てやって』
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話を聞いた後、探し出してようやく見つけたミネアはいつもと変わらない。
あとをつけてみれば、にこやかにパーティの雑務をこなしつつ、町行く人に微笑を投げかけ、困っていると見ればさりげなく手を貸している。
さらにその『お持ち帰りした相談事』も解決してきたんだろう。
一軒の民家から出てきた彼女の艶やかな笑顔、明るい声音、そしてふわりと踊るような足取り……。
彼女が宿の玄関をくぐるのを見届けて、クリフトは後を追う足を速めた。
今日は確か、ミネアは一人部屋。
ノックしてみる、が、返事がない。
もう一度、もう一度、だがそれでも、一足先に部屋に入ったはずの彼女の返事がなかった。
一瞬躊躇して、意を決して扉に手をかけ、勢いよくあけた先で
ああ、案の定。
ミネアが、床に倒れこんでいた。