『Ram On !! 1.』
容赦なく照りつける光の中、巻き上がる砂と熱風の町で自国の兵士より一報を受けたアリーナ一行は、父王に突如襲いかかった異変を目の当たりにした後、再び灼熱のオアシスにとんだ。
そこからさらに南西、目指すは『さえずりの塔』。
天に愛されし妖精がその美声を保つため集めに来るという、ここにしか咲かぬ不思議な花から採れる蜜……『さえずりの蜜』さえ あれば、奪われた声をも取り戻せるかもしれぬという情報を信じて足を踏み入れたのだ。
首尾よく目的のものを手に入れた一行はすぐさまサントハイムに引き返す。
誰もが固唾を呑んで見守る中、人智及ばぬ力を秘めるというその蜜を一滴残らず飲み干した王は、おそるおそる喉に手を当て、そして、大きく息を吸い込んだ。
「………。ん? あーあー。おお!? こ、声が出るぞ!治った、治った!」
「よかった、お父様!!!」
控えし重鎮一同からも、歓喜と安堵のざわめきが漏れる。
さながら重くたちこめる暗雲のごとし雰囲気もぱっと晴れたところで改めて、アリーナとブライからここにいたるまでの一部始終を聞く間……王は目をつぶり、じっと思考をさまよわせているようだった。
「そうかお前たちが……。ともかく礼を言おう」
「しかし陛下、突然声が出なくなったとは、いったい……?」
ブライの問いに、王は一つ大きくうなずいた。
「実はわしはとてつもなく恐ろしい夢を見たのだ。
巨大な怪物が地獄から蘇り全てを破壊していた。
はじめはわしの胸にだけしまっておくつもりだったが、あまりにも同じ夢を何度も見るのだ。
何やら嫌な予感がしてな。
大臣に夢の話をしようとしたその途端声が出なくなったのだ…………。
もしかすると何かが起ころうとしているのかもしれん……。
アリーナ、お前は」
「だったら私が見に行くわ!怪物だろうがなんだろうが、のしちゃうんだから!」
「ならぬ!」
城に戻り大人しくしていろ、そう言おうとした父の言葉は、威勢のよい愛娘の声にかき消される。
間髪いれず、居合わせた誰もが肩をすくめるほど大きな王の一喝が、玉座の間を揺るがした。
だがすっかり慣れっこのアリーナは意に介す様子もない。
どころか、立ち上がり一歩ずいっと詰め寄るなり大声でまくしたてはじめた。
ブライはクリフトに目配せし、居並ぶ重鎮の末席へと移動すると、事の展開に焦りを隠せぬクリフトを追いやるように己の斜め後ろへと控えさせ、ふむ、と一つ髭を撫でつける。
そんな様子を知ってか知らずか、親子の言い争いは熱をはらんで限界知らずに加速していった。
「私たちが外に出なかったら、お父様は声が出ないまんまだったのよ?
結果オーライじゃない!」
「それとこれとは話が別だ!!
だいたい散々とめてきたと言うに勝手に出て行きおってからに……。
この期に及んでまだ、再び行くと言って聞かぬのか!?」
「当然!とめても無駄よ、お説教も聞き飽きたわ。
仕方なくいったん帰ってきたけれど、まだまだぜんぜん足りてないんだから。
こんな城の中でおとなしくしてるなんて退屈なだけ。
無駄に時間を消費して、ただ息をしているだけのような生き方なんてまっぴらよ。
私はもっと強い敵と戦いたい。腕を磨きたいの。そして広い世界をもっとこの眼で見て回るの!
それで世界の異変も探れるのなら、一石二鳥というものじゃない」
つらつらと語りながら胸を張るアリーナを見据えて、ため息をついた王は、とうとう無言のままゆっくりと玉座から立ち上がった。