『GIFT  1.』


 昼食がてら木陰の下で一休み。
 ………片づけを終えたクリフトの背後に忍び寄る影は、ゆっくりと、その肩へと手を伸ばした。


「 ク ・ リ ・ フ ・ ト ・ 君 ! 」

「 う わ ぁ あ あ あ あ ! ! 」


 油断しきっていたところに突然声を掛けられ、思わず仰け反って情けない悲鳴を上げたクリフト。
 一方トルネコは、そんな様子など意にも介さずにニコニコと笑みを浮かべている。


「と、と、と、トルネコさん!ど、どうなさいましたか!?」

「いやぁ〜クリフト君、何か忘れてないかい?と思ってね」

「へ?」

「ほらぁ、約束したじゃないか」

「やくそく?」

「そう、約束」

「約束…約束……やくそく………あ!!!!」


 思い当たって叫んだ途端、クリフトには人の良いトルネコの笑顔が商人のお愛想に見えてきた。


「思い出してくれたかい?」

「あぁああ……あの、申し訳ありません!………も、もう少し……」

「いや、最近忙しいからね、気にしてないですよ。
 ただ覚えていてくれればいいんです。いつまでもお待ちしておりますからね」


 トルネコは満足げに頷くと、クリフトの肩を叩いてにっこり笑う。
 クリフトも曖昧な笑みを返して……無意識のうちに、ため息をついた。

 以前ライアンからの相談事について、トルネコにも協力を仰いだときに交わした約束が脳裏に蘇る。


 『ですが、条件があります……クリフト君がアリーナさんのプレゼントに何かを買ってくれる事』

 『良心的なお値段にしておきますよ。分割払いでも結構ですしね』

 『商談成立ですね、毎度ありがとうございます!』


 トルネコは、クリフトがすっかり、最近の忙しさにかまけて忘れていたと思いこんでいたようだし、そこで言い訳をするのもどうかと思ってあえて訂正もしなかったが……本当はちゃんと覚えていた。一応これでも考えてはいたのだ。
 だが。
 ……クリフトはまた大きくため息をつく。

 確かにアリーナになにかプレゼントしたいという気持ちはある。
 漠然と「こんなものなら」という考えだってあるにはある。
 そう。『気持ち』はあるのだが、自分には。

 ライアンのような確固たる『想い』が、ないのだ。

 彼の真摯な眼差しを思い出すたびに、自分の気持ちの曖昧さが浮き彫りになって躊躇してしまう。
 持ち合わせもないという現実が余計に二の足を踏ませる。

 ……アリーナへの贈り物を、こんな中途半端な気持ちで選ぶ事は出来ないし、したくない。


「おーい、そろそろ出発するぞ〜〜!!!」


 遠くから聞こえる声に、大剣を構えなおして


「さて、どうしたらいいものかな……」


 クリフトは、小さく小さく呟いた。




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